概要
原子・分子の構造や運動は量子力学の基礎方程式であるSchrödinger方程式に支配されています。したがって、このSchrödinger方程式を理論的に解くことができれば原子・分子の振る舞いが予測できることになります。このような考えに基づく理論・計算手法を量子化学、第一原理計算、ab initio計算手法と呼びます。 当研究室ではこのようなab initio計算を用いて、エネルギー・環境問題に関連が深い触媒・電池・燃料電池を対象とした研究を行っています。計算機シミュレーションにより、触媒により促進される化学変化が起こった場合の反応熱を予測したり、活性化障壁を予想することで反応の起こりやすさを示すことができます。
研究成果
触媒反応は物質の変換が目的であり、そのためには転化率(原料がどのくらい反応したか)や選択率(どの程度の割合で目的生成物が得られるか)が重要な指標になります。これらの量を理論計算のみから予測することができれば、多数の実験を行う必要がなくなり、人的・環境負荷が軽減されます。しかし、転化率や選択率を算出するためには1つの素反応を考えるのみでは不十分であり、多数の素反応を同時に考慮する必要があります。しかも、それぞれの素反応に対する速度定数などのパラメーターを知る必要がありますが、実験的にこれらを決めることは容易ではありません。 そこで、本研究室では第一原理計算により各素反応の速度論的パラメーターを算出し、これらを用いて多数の素反応からなる速度論的方程式を解く「微視的反応速度論」に注力しています。
微視的反応速度論などにより各化合物の反応速度が求められると、物質や熱の流れを考慮することで化学反応が起こる場である反応器全体をシミュレーションすることが可能になります。このような計算は数値流体力学(computational fluid dynamics: CFD)と呼ばれ、CFDにより化学反応を取り扱うことで現実的なシミュレーションが可能になります。当研究室ではCOMSOLやopenFOAMなどのCFDソフトウェアを用いてこれらの問題に挑戦していきます。
第一原理計算や反応速度論を用いることにより、与えられた材料が高いパフォーマンスを示すことを説明することは可能ですが、それらの知識を使って新規の材料を提案することは容易ではありません。これらを可能にするための1つの手法として、機械学習(machine learning)があります。 当研究室では主に触媒や電池、燃料電池をターゲットとして、理論シミュレーションによりデータを生成し、それらの結果を回帰やクラスタリングにより解析したり、ニューラル・ネットワークによる新規材料の提案を行っています。